何が起きたか

Carbon Pulseは2026年9月16日、欧州委員会の担当者が同日、炭素除去・カーボンファーミング(CRCF)の枠組みで認証された炭素除去単位について、企業の買い手がどのような形で活用できるのかを説明するガイダンスを来年初めに公表する計画だと述べたと伝えた。報道の見出しでは、企業側の「ユースケース(利用場面)」を明確に示すという趣旨が示されている。

CRCFは、EUが炭素除去とカーボンファーミングの成果を共通のルールで認証するために設けた枠組みであり、除去や炭素貯留の量をどう測定・検証し、どのような条件で認証単位として扱うかを定めることを目的としている。これまでの議論は主に、認証の対象となる活動の範囲、方法論の整備、レジストリの設計といった供給側の制度づくりに重心があった。

今回伝えられたのは、その認証された単位を企業がどう位置づけられるかという、需要側の論点に関する予告である。もっとも、現時点で確認できるのは、ガイダンスの公表が来年の早い時期に想定されていること、対象が企業による利用の説明であることまでにとどまる。文書の法的な性格、想定される利用場面の具体的な列挙、既存の開示制度との対応関係といった内容は明らかにされていない。実際の中身は、公表される文書に沿って確認する必要がある。

なぜ重要か

第一に、認証と利用の間に残る空白に関わる点である。除去の量が公的な枠組みで認証されても、それを企業が自社の気候関連の主張や報告にどこまで用いられるかは、別の制度や基準の判断に左右されてきた。認証単位の使い道が整理されないままでは、買い手にとって購入の意味づけが定まりにくい。今回のガイダンスは、その接続部分に踏み込むものと位置づけられる。

第二に、需要の見通しに影響し得る点である。炭素除去は一般に費用が高く、供給側は長期の購入契約に支えられて事業を組み立てる構図が続いている。企業が認証単位をどのような文脈で使えるのかが示されれば、社内での投資判断や予算の説明が立てやすくなる面がある。逆に、利用場面が限定的に整理される場合には、想定していた調達方針の見直しが必要になる可能性も残る。

第三に、除去と削減の区別をめぐる整理である。除去単位を排出の相殺として扱うのか、残余排出への対応として別枠で示すのかは、企業の主張の信頼性に直接関わる論点として長く議論されてきた。EUの枠組みがこの点をどう扱うかは、域外の基準づくりにも参照され得ると考えられる。

日本への含意

国内では、森林吸収やバイオ炭、農地の炭素貯留といった活動が、J-クレジット制度などを通じて評価されてきた。EUの動きが直ちに国内制度に反映されるわけではないが、認証された除去をどのような場面で用いてよいとするかという考え方は、企業の開示実務や取引先からの要請を通じて間接的に伝わってくる余地がある。

企業の担当者にとっては、欧州に事業や取引関係がある場合、調達した除去単位の位置づけが将来の指針でどう扱われるかを想定しておく意味がある。契約の段階で、対象となる活動の種類、測定と検証の方法、貯留の期間に関する説明を記録として残しておく姿勢が、後の説明責任に資すると考えられる。

自治体や生産者の立場では、除去に対する需要が制度の整理によって安定するのかどうかが関心事となる。需要側のルールが明確になれば、農林業由来の炭素貯留に資金が向かう経路が見通しやすくなるという見方ができる一方、求められるデータの水準が上がることも想定される。現時点で結論を急がず、公表される文書の内容を順に確認していくのが妥当だろう。

用語解説: カーボンファーミング

農地や草地、森林などの管理を通じて、土壌や植生に炭素を蓄えたり、農業由来の温室効果ガス排出を抑えたりする取り組みの総称。被覆作物の導入、耕起の抑制、湿地の再湿地化、樹木の導入といった手法が含まれる。生産活動と両立しやすい一方で、蓄えられた炭素は管理方法の変更や気象条件によって失われ得るため、貯留の継続性をどう確認し、測定の不確実性をどう扱うかが制度設計上の課題とされてきた。EUのCRCFでは、こうした活動を認証の対象分野の一つとして位置づけ、共通の測定・検証の考え方を整えることが目指されている。