何が起きたか

Carbon Pulseは2026年9月28日、炭素クレジットと生物多様性クレジットを重ねて活用することが、森林再生の資金調達を後押しし得るとする国連の報告書について報じた。同時に、自然に関する市場がまだ発展途上にあること、成果を測り確認するための検証の仕組みが十分に整っていないことが、この手法を広げるうえでの制約になっていると指摘されているという。

森林の再生には、苗木の調達や植栽、初期の保育、モニタリングなど、成果が現れるまでの長い期間にわたって費用が発生する。従来、この費用を賄う手段として先行してきたのが、樹木の成長に伴う炭素の吸収・貯留を単位化して売買する炭素クレジットである。近年はこれに加えて、生息環境の回復や在来種の増加といった自然の状態の改善を単位化しようとする生物多様性クレジットの設計が各地で試みられている。報道が伝える論点は、同一の事業から性質の異なる二種類のクレジットを生み出し、収入源を積み重ねる(スタッキング)という発想である。

なお、報告書の発行主体や公表日、対象とした地域、想定される事業類型といった詳細は、本報道からは確認できない。

なぜ重要か

第一に、森林再生の資金ギャップという長年の課題に対する、現実的な選択肢の一つとして提示されている点である。炭素クレジット単独では、価格水準や需要の変動によって事業の採算が左右されやすい。複数の収入源を組み合わせることで、事業者が長期の計画を立てやすくなる可能性は、資金の出し手にとっても関心事となる。

第二に、二重計上をめぐる整理の必要性である。同じ土地で生じた便益を、炭素と生物多様性という別の物差しで切り分けて販売する以上、それぞれが何を測り、誰に帰属するのかを明確にしなければ、購入者の説明責任が果たせなくなる。報道が検証体制の未成熟を障壁として挙げていることは、この点の難しさを示していると読める。

第三に、市場の成熟度の差である。炭素クレジットには複数の国際的な認証制度と方法論が蓄積されているのに対し、生物多様性クレジットは指標の設計や取引の枠組みが模索の段階にある。どの指標を、どの基準年と比べて評価するのかについて共通の理解が乏しければ、価格形成も取引量も安定しにくい。組み合わせの有効性は、後者の制度整備の進み具合に左右されると考えられる。

日本への含意

国内では、人工林の再造林の遅れや、管理が行き届かない森林の存在が課題として挙げられてきた。森林由来の炭素クレジットについてはJ-クレジット制度に方法論が置かれているが、一件あたりの収入だけで施業の費用を賄うことは容易ではないとされる。生物多様性の側面では、民間の取り組みによる区域を国が認定する仕組みが動き始めており、自然の状態の改善を可視化する経験は蓄積されつつある。

企業の担当者にとっては、クレジットを調達する際に、炭素の量的な効果と自然環境への効果を分けて把握しておくことが基本になる。両者が同じ事業から生じている場合、自社の開示でどのように記述するのか、重複した主張とみなされない整理ができているかを確認しておきたい。

自治体や林業・漁業の生産者にとっては、資金化を前提としない段階であっても、施業の履歴、対象区域の境界、動植物の記録といった基礎データを継続して残すことに意味がある。将来どのような制度が整うにせよ、変化を示す出発点のデータがなければ成果を主張しにくいためである。現時点で新しい収入源を見込んで計画を組み替える必要はないが、国際的な指標づくりと国内の制度運用の双方を並行して追う姿勢が現実的といえる。

用語解説: 生物多様性クレジット

特定の場所で行われた保全や再生の取り組みによって生じた自然の状態の改善を、測定可能な単位に置き換えて取引できるようにしようとする仕組みを指す。温室効果ガスのように世界共通の単位で表せる炭素クレジットとは異なり、生物多様性は生息地の面積、植生の質、対象種の個体数など複数の側面を持ち、地域ごとに意味合いが変わる。このため、何をもって一単位とするかについて国際的に確立した基準はまだなく、複数の枠組みが並行して検討されている段階にある。購入者側の位置づけも論点で、開発による損失の埋め合わせを目的とするオフセット型と、埋め合わせを主張せずに保全活動へ資金を提供する貢献型とが区別して議論されることが多い。運用上は、基準となる状態の設定、成果の継続性の担保、地域社会や権利者との利益配分、第三者による検証の確保などが課題として挙げられている。