何が起きたか
民間の温室効果ガス認証制度を運営する非営利団体Verraは2026年10月6日、食品ロス・廃棄の削減を扱う方法論に基づくカーボンクレジットを初めて承認したと発表した。対象となったのは、米国マサチューセッツ州ボストンに拠点を置くBrightly社が開発した案件(Verra登録番号4711)である。同社の説明によれば、余剰となった食品を埋立処分に回す前に回収し、必要とする人々へ届ける活動を通じて、およそ72万トンのCO2相当の排出を回避したという。
用いられたのはVerraの認証制度であるVCSの方法論「VM0046」で、本来は失われる、あるいは捨てられるはずだった食品を人の食用の流れにとどめた場合に、どれだけの温室効果ガス排出が避けられたのかを算定する手順を定めるものとされる。
発表によると、この案件には全米29の独立した食品回収団体が参加し、大手のフードバンク組織も含まれる。2020年3月から2023年12月までの期間に、参加団体が回収した余剰食品は153億ポンドに達したと説明されている。審査(妥当性確認・検証)は第三者機関のSCS Global Servicesが担当した。Verraの最高経営責任者は発表の中で、「食品廃棄は見落とされてきたメタンの発生源」との趣旨を述べ、排出回避を信頼できる形で測れることが示されたと位置づけている。
なお、クレジットの発行量そのものや価格、購入者、算定に用いた前提条件の詳細は、この発表からは確認できない。
なぜ重要か
第一に、これまで資金が回りにくかった分野に、炭素市場を通じた収入の経路が開かれる可能性が示された点である。食品の回収・再分配は、寄付や補助に依存する運営が多いとされてきた。排出回避量が第三者の検証を経て単位化されれば、活動資金の多様化につながるという見方がある。
第二に、メタン対策としての位置づけである。食品が埋立地で嫌気的に分解される過程ではメタンが発生する。メタンは大気中の滞留期間が比較的短い一方、短期的な温暖化への寄与が大きいとされ、国際的にも排出削減の優先分野として議論されてきた。発生そのものを未然に防ぐ取り組みが算定の対象になったことは、対策の選択肢を広げる材料といえる。
第三に、算定の難しさという論点も残る。回収されなかった場合に食品がどう処理されたかという前提(ベースライン)の置き方、回収された食品が実際に消費されたことの確認、輸送や保管に伴う排出の扱いなど、検証すべき点は多い。排出の「回避」を扱うクレジットは、追加性や過大計上の懸念が指摘されやすい類型でもあり、今後の運用と外部からの評価を見ていく必要がある。
日本への含意
国内でも食品ロスの削減は政策課題として位置づけられ、事業系・家庭系それぞれの発生量が推計・公表されてきた。食品関連事業者やフードバンク、自治体による取り組みも広がっているが、これらを排出削減の成果として定量的に示す枠組みは十分に整っているとはいいがたい。海外制度で方法論が実際に機能した事例は、国内で算定の考え方を検討する際の参照材料になりうる。
企業の担当者にとっては、自社のサプライチェーンにおける食品の廃棄量を把握し、処理方法ごとの内訳を記録しておくことが出発点となる。海外発行のクレジットを調達する場合は、どの方法論に基づくか、ベースラインの設定や検証の範囲がどう設計されているかを個別に確認する姿勢が求められる。
自治体や生産者にとっては、規格外品や余剰品の流通経路を整理し、回収量や提供先の記録を残すことに意味がある。収益化の見通しが立たない段階でも、基礎的なデータがなければ後から成果を示すことは難しい。国内外の制度の動きを並行して追うことが現実的といえる。
用語解説: 食品ロス・廃棄(FLW)
生産から流通、小売、消費に至る過程で、本来は人が食べられたはずの食品が失われることを指す概念である。国際的には、収穫後から小売の手前までで生じる減少を「食品ロス(food loss)」、小売や外食、家庭の段階で生じる廃棄を「食品廃棄(food waste)」として区別する整理が用いられることが多い。日本では両者をあわせて「食品ロス」と呼ぶ場面が一般的である。
気候面で注目される理由は、廃棄そのものに加え、生産・加工・輸送に投じられた資源やエネルギーが無駄になる点、そして埋立処分された場合にメタンが発生する点にある。対策としては、発生の抑制(需要予測の精緻化、期限表示の見直しなど)、人への再分配(フードバンク等)、飼料や肥料への利用、エネルギー回収という優先順位の考え方が示されることが多い。排出削減量として算定する際には、回避された処理方法の特定や、再分配された食品が実際に消費されたかの確認が課題となる。