何が起きたか

Carbon Pulseは2026年10月20日、私法統一国際協会(UNIDROIT)が、任意(ボランタリー)炭素クレジットを対象とする法的枠組みの原則案を、12月に最終的に取りまとめることを目指していると報じた。これに先立ち実施された公開協議には、各国政府、市場参加者、その他の関係者から500件近い意見が寄せられたとされる。

UNIDROITは、各国の私法(取引や財産に関する法律)の調和を目的として設立された政府間機関で、担保取引や証券の保有・移転といった分野で、各国が国内法を整備する際の参照となる文書を作成してきた経緯がある。今回の作業も、炭素クレジットの保有や移転、担保としての取り扱いなどをめぐる法的な位置づけを整理する試みと位置づけられる。

もっとも、現時点で参照できるのは報道の要旨にとどまる。原則案がクレジットをどのような権利として整理しているのか、第三者への対抗要件や倒産時の取り扱い、二重計上の防止といった論点をどこまで扱うのかは、要旨からは読み取れない。12月に予定されるとされる承認の手続き上の位置づけや、承認後に各国がどう参照するのかについても、同様に確認できない。評価にあたっては、同機関の公表文書に当たる必要がある段階といえる。

なぜ重要か

第一に、任意市場で長く指摘されてきた法的な不確実性に関わる点である。炭素クレジットは、登録簿(レジストリ)上の記録として保有・移転されるが、それが法的にどのような性質の権利なのかは国によって整理が異なるとされてきた。所有権に類するものなのか、契約上の請求権なのか、あるいは無体の資産として扱うのかによって、売買、担保設定、倒産手続きでの扱いが変わりうる。

第二に、金融取引との接続である。クレジットを担保に資金を調達したり、先渡し契約で将来の発行分を取引したりする動きは一定の広がりを見せてきたとされるが、権利の性質が定まらなければ、貸し手や投資家は回収可能性を評価しにくい。国際的に共通の参照点が示されれば、契約実務の前提を整える材料になりうる。

第三に、公開協議に多数の意見が寄せられたこと自体が、関心の広がりを示す材料となる点である。政府、取引の当事者、認証機関など、立場によって望ましい整理は必ずしも一致しないと考えられ、最終文書がどの程度まで具体的な指針を示すのかが論点となる。ただし、意見の内訳や主要な対立点は、報道の要旨からは確認できない。

日本への含意

国内の企業が海外のクレジットを調達する場面では、売買契約の準拠法や、登録簿での移転が完了する時点、相手方の信用リスクをどう扱うかといった実務上の確認事項が生じる。国際的な原則が示されれば、契約条項を点検する際の参照材料となる可能性がある。

また、国内でもJ-クレジットや二国間クレジット制度(JCM)を通じたクレジットの取得・移転が行われており、会計や税務の扱いとあわせて、法的性質の整理は実務の前提に関わる。自治体や農林水産業の生産者にとっては、森林の吸収や営農の取り組みをクレジット化する際に、誰が権利を保有し、どのような手続きで移転するのかを契約で明確にしておく姿勢が、共通して求められる論点といえる。

現段階は、国際機関が最終決定を目指す方針が報じられた局面にとどまる。文書の内容が確定した事実ではなく、また原則文書は各国を直ちに拘束する性質のものとは限らないため、具体的な契約実務を直ちに組み替えるというより、公表される文書の構成と適用範囲を確かめる段階と整理するのが現実的と考えられる。

用語解説: UNIDROIT(私法統一国際協会)

各国の私法の調和・統一を目的とする政府間機関で、ローマに本部を置く。条約のほか、各国が国内法を整備する際の手本となるモデル法や、契約実務の参照基準となる原則文書を作成してきた。拘束力を直接持たない形式の文書であっても、裁判や契約の実務で参照されることを通じて影響を及ぼす場合があるとされる。

近年は、デジタル資産や電子的に記録される権利の扱いを扱う作業も進めてきたとされ、登録簿上の記録として存在する炭素クレジットも、こうした議論の延長線上に位置づけられる。記録の保有者が誰に対して何を主張できるのか、記録が二重に移転された場合にどちらが優先するのか、といった点が典型的な論点となる。

成果文書が公表された後は、各国の立法や契約実務にどう取り入れられるかが次の段階となる。国際的な原則は出発点であり、実際の取り扱いは各国の法制度との関係で定まるため、適用範囲と限界を確かめることが読み解きの前提になる。