何が起きたか

Carbon Heraldは2026年9月11日、スイスのClimeworksが直接空気回収(DAC)で新たな節目に到達し、CO2の回収能力を大幅に高めながら運転コストを圧縮したと伝えた。同社は大気中から二酸化炭素を分離回収し、地下で長期に貯留する事業を進めてきた企業として知られ、DAC分野の先行例としてたびたび取り上げられてきた。

もっとも、報道の要約から確認できるのは「回収能力が増え、運転コストが下がった」という方向性までである。どの設備で達成されたのか、能力やコストの水準がどの程度動いたのか、比較の基準となる時点は何か、第三者による検証がどのように行われているのかといった具体的な条件は示されていない。DACは装置構成や運転条件によって性能が大きく変わる分野であり、実際の内容は同社の公表資料に沿って確認する必要がある。

一般に、DACの性能は、大気からCO2を捕捉する材料の吸着・脱着の効率、脱着に要する熱や電力の量、装置の稼働率といった要素に左右されると理解されている。今回の発表も、こうした要素のいずれか、あるいは複数の改良が背景にあると位置づけるのが妥当だろう。

なぜ重要か

第一に、コストがDAC普及の最大の制約とされてきた点である。大気中のCO2濃度は排ガスに比べてはるかに低く、分離に必要なエネルギーが大きくなる。このため、1トンあたりの回収費用が他の削減・除去手段と比べて高い水準にとどまることが、広く指摘されてきた。運転コストの低減は、その制約を緩める方向の材料になり得る。

第二に、除去型クレジットの供給側の事情に関わる。近年はIT企業を中心に、長期のオフテイク契約によって初期の除去事業を支える構図が続いてきた。回収能力が増え単価が下がれば、支えられる側から自立する方向へ近づくが、逆に言えば現時点では需要家の購入意思に依存する構造が残る。

第三に、発表の受け止め方である。技術指標の多くは事業者自身の公表に基づくため、実際の除去量がどのように測定・報告・検証(MRV)されているか、貯留の永続性がどう担保されるかを、別途確認する姿勢が求められる。能力の向上とクレジットとしての信頼性は、切り分けて評価すべき論点と言える。

日本への含意

日本では、排出削減が難しい分野の残余排出に対応する手段として、DACを含むネガティブエミッション技術への関心が高まってきた。国内には地下貯留の適地や再生可能エネルギー供給の制約があり、海外の先行事例をそのまま移植できるわけではないが、装置コストや所要エネルギーの動向は、国内での実装可能性を考える際の前提条件になる。

企業の担当者にとっては、除去型クレジットの調達方針をどう整理するかが実務的な課題になる。森林などの吸収による除去と、地下鉱物化のように貯留期間が長いとされる除去では、価格帯も対外的な説明の仕方も異なる。単価の低下が報じられた場合でも、契約時点の価格や供給時期、検証の枠組みを個別に確認することが前提となるだろう。

自治体や生産者の立場では、DACそのものが直接の事業機会になる場面は限られる。ただし、余剰電力や未利用熱の活用先という観点、あるいは地域の脱炭素計画における残余排出の扱いという観点では、関連が生じ得る。技術の進展は段階的であり、現時点で普及時期や価格水準を見通して語ることは難しい。今後の発表で示される検証結果や実運転のデータを、順を追って確認していく姿勢が適切と言える。

用語解説: 直接空気回収(DAC)

大気中に薄く広がった二酸化炭素を、化学吸収液や固体吸着材を用いて直接分離・回収する技術。回収したCO2を地下に貯留すれば大気からの正味の除去となり、燃料や素材に利用する経路もある。発生源で捕捉するCCSと異なり、排出場所から離れた立地でも成立し得る一方、対象となるCO2の濃度が低いため、単位量あたりのエネルギー消費とコストが大きくなりやすい点が課題とされる。脱着工程に必要な熱を再生可能エネルギーや廃熱でまかなえるかどうかが、実用性を左右する要素の一つとされている。