何が起きたか

ICVCM(任意炭素市場の十全性に関する評議会)は2026年10月22日、コア・カーボン原則(CCP)の規則体系に基づく「明確化(Clarifications)」の案について、公開協議を始めたと公表した。対象は二つの論点である。第一は、炭素クレジット制度の理事会が独立した構成員で成り立っているかを、評価枠組みの基準1.1 a) 1)のもとでどのように判断するか。第二は、先住民族および地域コミュニティの権利に関する基準7.6 a) 1)を、どのように適用するかという点である。意見の受付は2026年12月3日午後11時59分(太平洋時間)までとされる。

背景には、2025年12月に同評議会の理事会が示した判断がある。政府が運営する制度についても評価の対象となりうるとし、関連する基準・要件を満たし、評価枠組みが定める十全性の閾値が維持され、保証と執行に関する法的な取り決めが当該国の当局と合意されていれば、CCP適格となる余地があるとした。評価対象が広がるのに備え、既存要件を一貫して透明に適用するうえで整理が有用な領域として、上記の二点が特定されたと説明されている。

なぜ重要か

第一に、同じ閾値を誰に対しても適用するという考え方が改めて示された点である。CCPと評価枠組みは高品質なクレジットの国際的な基準線と位置づけられており、政府運営の制度であっても、評価を申請する以上は同一の水準を満たす必要があるとされる。

第二に、独立性の判断軸である。明確化案では、要件が及ぶ統治・意思決定の機関の範囲、関係や利害をどう考慮するか、理事会に期待される構成、受託者責任や定款に関する要件をどう示すかが整理される。独立性は、制度の意思決定に関する判断に影響を及ぼすと合理的に見込まれる関係や利害を有するかどうかを基準に評価される、と記されている。

第三に、権利保護の水準をめぐる整理である。案では、活動が所在する国がILO第169号条約を批准しているか、先住民族の権利に関する国連宣言を支持しているかにかかわらず、同一の保護水準が適用されることが確認されている。これらの文書を名指ししていない制度であっても、土地・領域・資源に対する集団的権利、自由で事前の情報に基づく同意、文化遺産、非差別、救済へのアクセスなどの領域で、同等以上の保護があることを示せば基準を満たしうるとされる。その場合、同等性の説明を公開することが求められる。なお、明確化に公開協議は通常必要とされないが、今回は幅広い議論のために実施され、今後の手続きを変えるものではないと付記されている。

日本への含意

政府が関与する制度が評価対象になりうるという整理は、二国間クレジット制度(JCM)やJ-クレジット制度など、国内の公的な枠組みを考えるうえでの参照材料になりうる。ただし現時点では協議の段階であり、特定の制度の扱いが決まった事実ではない。

企業の担当者にとっては、クレジットを調達する際に、発行元制度の統治体制や権利保護の仕組みがどう説明されているかを確認する視点が重要になる。独立性の論点は、認証と意思決定を担う機関のガバナンス文書を読む際の着眼点につながる。

自治体や農林水産業の生産者にとっては、権利保護に関する考え方が、地域での合意形成の実務に重なる。森林や沿岸の資源を対象とする取り組みでは、土地や資源の利用に関わる権利者を確認し、事前に十分な情報を共有したうえで同意を得る手順、苦情や救済の窓口を整える姿勢が、国内外を問わず問われる論点といえる。

用語解説: コア・カーボン原則(CCP)

ICVCMが定めた、炭素クレジットの品質に関する基準の総称である。追加性や永続性、算定の保守性、第三者検証、二重計上の防止、ガバナンス、持続可能な開発に関するセーフガードなどの要素を柱とし、これを具体的な審査項目に落とし込んだものが評価枠組み(Assessment Framework)である。

評価は、クレジットを発行する制度そのものと、個々の方法論の双方を対象とする仕組みとされ、要件を満たしたものにはCCPラベルが付される。購入側が多数の制度や方法論を個別に精査する負担を減らし、比較の共通軸を設ける狙いがあると説明されてきた。

今回の明確化は、新しい要件を追加するというより、既存の基準をどう解釈・適用するかを文書として記録する位置づけと読める。実際の影響は、協議を経て確定する文言と、その後の各制度の評価結果を通じて見えてくる段階にある。